朝永振一郎「鏡の中の物理学」から

(中略)…この量子力学の体系は非常に数学的なものであるが、それは、この種の奇妙なものの行動を律するのには必然的なことである。すなわち電子や光子のように、日常われわれがみたことのある、通常の粒子と非常に異ったものの行動を述べるには、われわれの日常的な言葉をもってすることはできないのは当然なことである。何故なら通常の言葉は日常的な考え方と密接に結びついているので、こういう日常的なものとは全く別種の奇妙なものの行動を記述するには、全く不適当だからである。言いかえれば日常的な考え方から全く自由な、より純粋な言語によらなければ、そういうものの記述はできない。こういう、全く自由で純粋な言語というのは、すなわち数学である。量子力学が数学的にならざるを得ない理由はここにある。
(朝永振一郎「鏡の中の物理学」から)