芸術の中動態 P35-36

芸術は、われわれの生きるこの「現実」の地平とは別の次元に、もう一つ別の地平を生じさせる。絵画は、平面上の色や形という視覚に訴えるものだけで、ひとつの世界をつくり上げる。その世界は、現実と地つづきではなく、次元の異なる世界である。音楽は音で、文学はことばで、舞踊は身体の動きで、演劇はことばと所作で、映画はスクリーンに映し出される動く映像で等々、それぞれ用いる手段は違っても、別の次元にあらためてそれ固有の世界を生じさせることにおいては共通すると言えよう。そしてその世界は、単に対照的に別の次元として把握されるだけのものではなく、あくまでわれわれがそこに巻き込まれて生きるもう一つの地平である。