クロード・レヴィ=ストロース「野生の思考」から

E・スミス=バウエンは自分がすっかり困惑した話を、ほとんど潤色なしでおもしろく語っている。アフリカのある部族のところへ行ったとき、彼女はまずことばを覚えようとした。ところがインフォーマントたちは、初歩の段階で、植物の見本をたくさん集めてきて、それを示しながらいちいち名前を行って教え、また彼らはそれがごくあたり前のことと考えた。ところがスミス=バウエンにはその識別ができない。それは植物が見なれぬものであったためではなくて、彼女がそれまで植物界の豊かさ、多様性にあまり関心を持ったことがなかったからである。それに対して現地人たちは、そのような興味は当然持っていると信じ込んでいたのである。
(クロード・レヴィ=ストロース「野生の思考」から)